市場に積まれた織物を見て、模様の美しさに手が伸びる。
けれどもウロス(ulos)は、もともと「買って帰るための布」ではなかった。人から人へ、意味とともに手渡されるものだった。
CHAPTER 01
ウロスとは何か。
ウロスは、バタックの人々が織り、身にまとい、贈ってきた織物である。インドネシア教育文化省の無形文化遺産(Warisan Budaya Takbenda)データベースには「Ulos Batak Toba」として登録されており、登録記録には2014年の決定(SK 270/P/2014)と、北スマトラ州・サモシールという地域、「伝統的な技能と工芸」という分野が記されている。
つまりウロスは、国として守るべき文化として位置づけられている。一方で、ユネスコの無形文化遺産には登録されていない。この記事では、国の登録とユネスコの登録を混同しない。

CHAPTER 02
誰が、どのように織るのか。
ウロスは、腰にベルトを回して経糸を張る腰機(こしばた)で織られてきた。織り手は主に女性で、糸の準備から仕上げの房まで、多くの工程が手作業で行われる。一枚を織り上げるには長い時間がかかる。
トバ湖周辺には織りが盛んな集落があるが、個別の村での現在の稼働状況や見学の可否は、公的資料で確認できていない。訪問を前提とした具体的な案内は、確認が取れてから掲載する。
CHAPTER 03
「マンングロシ」― 布を、かける。
ウロスがもっとも強い意味を持つのは、人に掛ける瞬間だ。この行為はマンングロシ(mangulosi)と呼ばれる。
布を掛けるのは、掛けられる側より上位の立場にある人とされ、そこには祝福や守護の願いが込められる。誰が誰に掛けるのかは、前の物語で触れたダリハン・ナ・トルの関係によって定まる。だからウロスを贈ることは、単なる贈り物ではなく、その場の関係性を確認する行為でもある。
CHAPTER 04
誕生、結婚、そして葬送。
ウロスは、人生の節目ごとに登場する。子が生まれたとき、結婚の儀礼のとき、そして人が亡くなったとき。場面によって用いられる布の種類が異なると語られてきた。
ただし、どの種類の布がどの儀礼に対応するかについては、資料や地域によって説明に差がある。この記事では、個別の名称と場面を一対一で断定することは避ける。旅先で説明を受けたときは、その土地での語り方として受け取るのがよい。
CHAPTER 05
現在のウロス。
現在、ウロスは儀礼の布であると同時に、日常の装いやデザインの素材としても使われている。サモシール県をはじめとする地方自治体は、毎年10月17日を「Hari Ulos Nasional(ウロスの日)」として催しを行っていることを公表している。なお、この日を定めた国の法令そのものはこの記事の調査では確認できなかったため、「広く行われている記念日」として紹介する。
土産物店に並ぶ一枚にも、織り手の時間と、贈るという文化の記憶がある。次の物語では、その布が使われてきた村そのもの――サモシール島の集落へ向かおう。
